包装のコトども

2021.10.26

パッケージングの「多律」背反

「元旦を除いて365日、一日16時間働く」

『コンプライアンス』という言葉も縮みあがりそうなセリフで有名な、
日本電産会長、永守重信氏。

1973年に自宅のプレハブ小屋からスタートし、
一代で1兆円企業に躍進した同社の創業者である氏は、
元トヨタ幹部の関氏に社長の座を譲り、会長の座に退いた今も、
経済紙の特集にたびたび取りあげられています。

永守氏と言えば、上のセリフに象徴されるような、
とにかく地道な努力と精進を重ね、
他の追随を許さぬ圧倒的な技術力で市場を牽引する稀代のカリスマ、
といった勝手なイメージを抱いていたのですが、
とある経済コラムに、こんな意外な言葉がありました。

「今まで世界一とか業界初の製品を開発してきたが、もうかっていなかった。
値段を下げてそれに合わせたコストでモノを作るように言っている。
『適性品質』で競争相手に負けない売価にしないといけない」

これは『M&A66連勝』と称賛される氏が、
新たに買収した企業で社員教育の際に語ったとされる言葉です。

永守氏の経営思想をすでに深くご理解されている諸氏には、
至極あたりまえの言葉に聞こえるかもしれません。
しかし『にわか』で不勉強な私などにとっては、
かなり新鮮に聞こえた、というのが本音のところです。

いうまでもなく、品質や性能といった付加価値要素とコストとは、
多くの場合たがいに相容れぬトレードオフの関係にあります。
技術者出身の経営者である氏に対して、私はどちらかと言えば、
『品質と性能』といった付加価値訴求を重視する経営者、
という印象を持っていたのです。

しかし考えてみれば、同社はモーターなどの電子部品を主力とする、
いわば『中間製品メーカー』。
世界に名だたる最終製品メーカーとサプライヤーとの狭間で、
日々激烈なコスト競争にさらされていて当然であり、
上の発言のような絶妙なバランス感覚は、
むしろ経営に必須の能力であるのかも知れません。

そして分野は違えど、われわれ包装に携わる人間にも、
このエピソードは大いに示唆に富んだものです。

もともとコストに厳しい包装の世界でも、
とくにわれわれが担当するのは『工業包装』や『輸送包装』と呼ばれる分野。
工場間や拠点間の輸送梱包材、そしてカートン類などを中心とし、
カラー印刷や華やかなラッピングが施された『商業包装』とは対極にある、
コストに大変シビアな世界です。

美粧性や企業ブランディングなどの機能と無縁とはいえ、
製品を守る緩衝材としての実用性能には、常に厳しい要求が存在します。
そうした性能面と、コストとのトレードオフ。
そして昨今では、そこに環境性能がもう一つの軸として加わっています。

製品を保護するということが第一義的な存在意義である『緩衝材』。
しかし、時代とお客さまのニーズは絶えず変遷し、
自分たちが得意とする価値にしがみついていては、
お客さまのパートナーであり続けることはできません。

お客さまが求めているものは緩衝性能なのか、
それともコスト最優先なのか、リユースに適う耐久性か、
いや、製造ラインでの梱包作業性ではないか、処分性や環境性能は?
あるいは『それらすべて』なのか…。

偉大な経営者の言葉に、おこがましくも様々思いを巡らせてしまう、
パッケージング業界からの呟きでした…